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東京高等裁判所 平成6年(ネ)5385号 判決 1995年6月14日

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別紙当事者目録のとおり

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、新王子製紙株式会社に対し、連帯して金75億円及びこれに対する平成5年10月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

第二  請求原因

次のとおり付加するほかは、原判決の「第二 請求の原因」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決1枚目裏3行目の末尾に続けて「なお、控訴人は、当審における釈明に応じて、次のとおり主張した。すなわち、旧神崎製紙の取締役であった被控訴人大西信幸が同社の資金を株式の先物取引等で運用して同社に計75億円の損害を与えているにもかかわらず、旧神崎製紙の取締役又は監査役であった被控訴人河村俊彦らは、右事実を隠して、旧王子製紙との合併手続を進め、旧王子製紙の取締役又は監査役であった被控訴人河毛二郎らも、右事実を漫然と見逃したまま右合併手続を進めた結果、右合併により新王子製紙に75億円の損害を生じさせた。旧王子製紙及び新王子製紙の株主である控訴人は、本訴においては、被控訴人らに対し、商法267条に基づき、右合併によって生じた損害の賠償を求めているのであって、右合併前に旧神崎製紙について生じた損害の賠償を求めているものではない。」を加える。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も控訴人の本件請求はこれを棄却すべきものと認める。その理由は、原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。

なお、付言するに、弁論の全趣旨及び当審における控訴人に対する釈明に照らすと、控訴人の請求は、合併前に旧神崎製紙に生じた損害について、その当時の同社の取締役であった者らに対して、その賠償を求める趣旨のものではなく、旧神崎製紙又は旧王子製紙の取締役又は監査役であった被控訴人らが、旧神崎製紙の取締役であった大西信幸が同社に計75億円の損害を与えた事実を看過したまま漫然と両者の合併手続を進めたため、右合併によって新王子製紙に75億円の損害を生じさせたものとし、合併前から引き続いて合併後の新王子製紙の取締役又は監査役の地位にある被控訴人ら(ただし、被控訴人大西信幸は、合併の効力が生ずる前の平成5年10月18日、取締役退任)に対し、その賠償を求めるというものであると解される。

ところで、仮に旧神崎製紙の取締役であった大西信幸が株式の先物取引等で同社に損害を与え、あるいはその当時における同社の取締役らがその任務を怠り同社に損害を与えていたとしても、これによる同社の右取締役らに対する損害賠償請求権は右合併により新王子製紙に承継取得され、新王子製紙は、右合併後、承継取得した右損害賠償請求権を行使することができるのであるから、右請求権の行使不能等による損害は別として、また、このような損害が見込まれることによる合併比率の当否等の問題は別として、右合併自体によって直ちに75億円の損害が新王子製紙に生じたものとすることはできない。したがって、控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことになる。

よって、被控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法95条、89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水湛 裁判官 瀬戸正義 裁判官 西口元)

別紙 当事者目録 《略》

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